はじめて会ったときの印象は、「なに、こいつ」だった。
気が弱そうで、腕っぷしも弱そうな取るに足らない大多数の一人。
夏希姉ちゃんが連れてきたとか聞いたけど、正直言ってどうでも良かったし。
それが変化したのは、OZの暗号パスを解読したって聞いてから。
純粋に「すげぇ」と思った。
2056桁の暗号で守られた最高のセキュリティを頼りないことこの上ない目の前の人が解くとか、驚くよ普通。
ただ、OMCバトルはてんでだめだったけど。
地味で気弱で目立たない、情けない印象だったこの人は。
最後の最後まで諦めずに、どんなアクシデントにも挫けることなく。
唯一の取り柄だと、自信なさげに言ったその数学力で。
世界を救って見せた。
その頃にはすでに自分は、かなり彼に打ち解けていて。
「あんたがそんなに懐くなんて、珍しいわね」
なんて母さんに言われた。
そんなの知らない、とか返事したけど全くだと自分でも思うよ。
頼りなげな風体なのに、ここ一番では驚くほどの根性を見せて。
皆が諦めて投げ出したのに、最後まで諦めずに凄いことをやってのけたのに、傲るわけでもなくただただ恐縮して、自然体でいる。
本当にすごいと思う。
それに、なんか調子狂うんだよね。
陣内家に今までいなかったタイプだからだと思うんだけど。
師匠やおじさんたちとは年が離れてるから大人と子供ってのが当たり前だし中には胡散臭いのもいるし、翔太兄はあの通りギャーギャーうるさくて単純だし。
唯一年の近い親戚でそれなりに話が合うのは了平兄だけど、典型的なスポーツマンだから微妙に噛み合わなかったりもする。
年下はガキンチョばっかりだし問題外。
そんなかんじだったから、気が弱そうで人の良さそうなタイプは正直ちょっと苦手かなって思ってたのに。
色々、苦いものも重いものも抱え込んで飲み込んだ上で、へらへらって言うかへにゃって言うか柔らかい感じの笑いを浮かべることが出来る。
彼はそんな風に、外見じゃなくて芯が強い人だった。
そんな雰囲気に調子を狂わされて、いつの間にかそれが普通になった。
ほんと、意外性の塊で凄い人だと思うよ。
こんなに凄い人が、夏希姉ちゃんの彼氏なんて嬉しいことだよね。
翔太兄は断固として認めないみたいだけど、一族揃って諸手を上げて賛成してるんだから無駄だと思う。
もちろん僕もね。
数年後には、夏希姉ちゃんの旦那になって親戚付き合いするようになるのが楽しみだよ。
それでなくてもとっくに身内としてに認識されてるから、夏になる度に上田に呼び出されるだろうけどね。
それじゃ、円滑な親戚付き合いをするために、まずはOZ内での交流からかな。
OMCの指導をしてあげるよ。
全てはココから始まります。
と言うことで、佳主馬モノローグみたいなものです。
まだまだ、親戚のお兄さんに懐く感じ。
恋愛感情は微塵もありません。