去年の、あの忘れられない夏から、OZでやり取りする人が増えた。
まずは夏希先輩。
あれから正式にお付き合いをしているので、メールのやり取りや電話することが主なつながり。
夏希先輩は機械操作に関してとても疎いので、OZ内で遊ぶということはあまりない。
次に、上田の陣内家の皆さん。
万里子おばさんは、うちの身内だからと季節の野菜や果物を送ってくれる。
『荷物送りました。しっかり食べて、頑張ってください』
そんなメールが届けば、ありがたいやら申し訳ないやら、でもやっぱり嬉しいと思う気持ちが大きい。
万助おじさんは、イカや魚介類を送ってくれる。
そして意外とOZ内でも会ったりする。
佳主馬君にOZ経由で少林寺を教えたというだけあって、夏希先輩よりもOZライフをエンジョイしているようだ。
万作おじさんもOZの中でたまに会う。
OZのシステムは便利だけど、あの夏以来こまめに患者の回診をするようになったそうだ。
理一さんや侘助さんとは結構頻繁にやり取りしているかもしれない。
あの日、自衛隊に入らないかと言ったのは結構本気らしくて、あの時一緒に頑張った佐久間ともども「いつでも待ってるよ」なんて言ってる。
どこまで本気なのか、読めない人だ。
侘助さんは、フラッと話しかけてきてはこっちが夢中になってしまう数式や理論を提示していく。
ちょっと専門分野は違うけど、話していて凄く楽しくてためになる。
何より、数学について語り合えるというのが自分にとっては一番大きい。
まあ、夢中になると寝食忘れがちになるので、一回ふらふらになるまで没頭してしまってからは数式を余り教えてくれなくなった。
そんな感じで、頻繁に連絡を取り合っているのがなんだか凄く嬉しい。
その中でも、一番頻繁に連絡を取り合っているのは、OMCチャンプのキング・カズマである佳主馬君だ。
ラブマシーンとの戦いで一番最初に自分を信じてくれて、無条件で協力してくれた夏希先輩の又従兄弟は、なぜか僕に懐いてくれていてOZの中でよくやり取りをしている。
スーパー有名人の彼は余りオープンエリアを出歩かない、というか出歩けばパニック必至だから自重してるらしいけど、それでもたまにオープンエリアで遊ぶ。
大半はクローズスペースで、近況報告したり数学問題を教えたり、恐れ多くもOMCのテクニックなどを教えてもらう……というか見せてもらったりしているのだが。
時間が合えば佐久間も顔を出したりして、学生らしい会話をしたりもしてる。
成長期真っ只中の佳主馬君は、最近とみに成長が盛んらしく節々の痛みや腹痛などに辟易しているらしい。
夏に上田にお邪魔した時は、去年よりも10センチも伸びたとかで随分大きくなっていた。
僕だって、まだ年に数センチずつは伸びているけども、さすがに現役成長期の伸び方は違う。
まさに雨後の筍と言う感じだ。
陣内家の皆さんは全員長身の方ばかりなので、遠からず佳主馬君に身長を抜かれると覚悟はしているけどさすがにちょっと寂しいというか悔しいというか。
ほんと、どんだけ伸びるつもりなんですかキング、と小一時間問い詰めたい気もする。
来年の夏に会うのがちょっと怖い、この勢いだと身長が並んでいるという事態に陥ってそうで。
もともと整った顔立ちをしているので、どんどん格好良くなっていくだろうことが予想できてちょっとばかり男としてのプライドが疼かないでもない。
でも、やっぱり弟分みたいな佳主馬君が成長していくのは見ていて嬉しいものだ。
それにつまらない嫉妬で、間近でキング・カズマをじっくり見る機会を逃すのは馬鹿馬鹿しい。
ずっとキングであり続けるには、大きなプレッシャーと弛まない努力が必要なのに、クールに何でもないことのように己を保っている佳主馬君は正直に格好良いと思う。
そういう面では、彼は僕なんか足元にも及ばないくらい大人だ。
でも、それを鼻にかけることなく自分が子供であることもちゃんと理解していることを何より尊敬している。
佳主馬君は僕が「僕なんか」と言うことを凄く嫌がる。
曰く「自分が認めた人が、己を卑下するのは許せない」のだそうだ。
僕のどこが彼に認められたか、いまいち良くわかっていないけれども、佳主馬君の言葉に理一さんや侘助さんも全くだと同意していたのは、なんともいたたまれなかった。
本当に、僕のどこがいいのだろう、佳主馬君のほうが絶対凄くて格好いいのに。
そんなことを佐久間に言ったら、思い切りあきれた顔を向けられた。
「キングは下手すりゃ、夏希先輩より健二のこと理解してるんじゃね? もう、結婚しちまえよお前ら」
はいはいクマクマとまで付け加えられて、からかわれたけどそれは佐久間にだって言えることなんじゃないかと思う。
まあ、佐久間とは付き合いが長いから当然なんだけど。
そう考えたら、佳主馬君は弟分と言うよりは親友と言うカテゴリに近いのかもしれない。
うわ、なんだそれちょっと恐れ多いな、キング・カズマが親友だなんて。
誰にもいえないけど、今度佐久間に自慢しよう。
まあ、何でそれを今思い出しているのかと言うと、受験勉強を本格的に始めてOZにログインする時間がかなり減ったから、少し寂しいのかもしれない。
僕も佐久間もさすがに保守点検のバイトは長期休暇を貰っている。
受験が終ったらいつでも復帰して来い、と言われているのはありがたいことだ。
夏希先輩とも朝と夜のメールのやり取りだけで、ちょっと寂しい。
陣内の皆さんや佳主馬君とのメールも控えめにしているから尚更。
だから、勉強の合間にふと思い出してしまうんだろうな。
とりあえず、受験が終るまでの辛抱だ。
大学に合格したら春休みは上田にいらっしゃいと言ってくれてるので、それを糧に頑張ろう。
さて、勉強再開しようかな。
健二さんメインの話があんまりなかったので、今回は独白っぽく。
もうなんか、未来を見るまでもなくこの時点からこいつらナチュラルにラブラブしてやがる! と思わなくもないですね(笑
そんなナチュラルな感じが大好きです。