健二さんは不思議な人間だと思う。
外見的印象は、よく言えばふわっとした雰囲気の人、悪く言えばへらへらしてて頼りない人。
でも、中身ははっきり言って思い切り規格外だ。
殊、数学に関しては周囲を圧倒するほどの才能を有している。
天才と言う括りでは不足なほど、その実力は無尽蔵にして無限大。
でなければ、2056桁という途方もないスケールの暗号パスワードを解けるはずがない。
しかも、最終的には暗算で解いてしまうなんて、目の当たりにしていなければ到底信じられないことだろう。
加えて、その内面の凛然とした強さも特筆しておかねばならない。
陣内家の者だけでなく、日本の様々な著名人が尊敬し信頼していた陣内栄……栄ばあちゃんが、彼と対面して数分でその人柄と内面を認めただけはある。
『健二さんは、うちの立派な婿さんだ。私の目に狂いはないよ』
栄ばあちゃんの目に狂いは、本当になかった。
ラブマシーンに2回も敗北して、もうダメだと諦めた僕に「まだ負けてない」と言い切って、その言葉の通り最後の最後まで諦めずにラブマシーンと戦ってのけた。
竹のようにしなやかで、決して折れない。
気弱な外見を裏切って、健二さんの内面は男らしく格好良い。
本当の意味で強い人だと思っている。
自分を守るために張り巡らせていた壁を、健二さんはいとも簡単にすり抜けてきた。
むしろ、壁なんかなかったかのように自然体で、身構える間もなく僕のテリトリーに入ってきて、馴染んでしまった。
他の誰かが踏み込んで来ようものなら、完膚なきまでに叩き潰してやるのだけど。
不思議と健二さんに対して、警戒心が沸かなかった。
夏希姉ちゃんが好きになったのは、恐らくこういう部分だと思う。
押し付けがましくなく、流されやすそうに見えるのに芯がしっかりしているところ。
懐が深くて、ともすれば際限なく甘えてしまいそうになるのに、それすら許容してしまう包容力を持っている。
わたわたしながらも受け入れる様が、見ていて大変和むのだが、それも彼の長所だと思う。
と、ここまで褒め殺しと言うくらいにべた褒めの評価も、彼自身には全く自覚がない。
そこが多少困った点ではある。
それを鼻にかけないところが健二さんらしい、美点だと思うんだけどところがどっこい。
健二さんは自己評価が呆れるほどに低い。
数学に関しては多少自信を持っているようだけど、まだまだ全然足りない。
どんなに凄いことを自分がやったのか、そろそろ自覚して欲しいところなんだけど。
で、自己評価が低いからこそ、他人を優先して自分を後回しにすることがあるのはいただけない。
素で「僕なんか」って思ってるところも気に入らない。
どれだけ陣内家の人が健二さんを評価してると思ってるんだ、って小一時間説教してやりたいくらいだ。
正直言って、僕は健二さんを尊敬している。
その尊敬する人が、自分を卑下しているとか凄くいやだ。
もっと自信を持ってよって、いつもいつも言ってるのに。
OZで話すときも、なんか凄い恐縮した様子なんだけど、むしろ僕が構ってもらってる方だし。
ぶっちゃけ健二さんはもっと評価されるべきだ。
あ、でもそうしたら健二さんが多忙になって、OZで相手してもらえなくなるかもしれないな……。
それはいやだな。
でも評価されないのも嫌だ。
もっとちゃんと正当に評価されて、少しは自信が持てばいい。
けど、本質は変わらないで欲しいな、って言うのは僕のわがままかな。
健二さんの傍らにいると、不思議と落ち着くんだよね。
ずっと傍にいたいって気分になってくる、夏希姉ちゃん早く健二さんと結婚しないかな。
そしたら、完全なうちの身内になっていつでも会いにいけるのに。
あ、でも。
夏希姉ちゃんに独り占めされるのはいやだな……って、僕なに言ってるんだ?
まあいいや、とりあえず健二さんの受験が早く終ればいいな。
春休みに上田に合格の報告に行きますって言ってたみたいだし、お祝い考えておかないとね。
佳主馬が健二さんをどう思っているか、というお話。
小説版読んでて一番最初に思ったのが「佳主馬って健二のこと好きすぎだよね」でした(笑)
なんと言うか、書いてて思った。懐くってか、もうこれ恋のレベルだよ佳主馬君。
佐久間が「もう結婚しちまえよ」って言うはずだーw
これで親戚の兄ちゃんに懐いてるって意識しかないんだから、どうなのよとか思います。
もう、ホントくっついちまえよってセルフツッコミ入れたい。