――本当は気が進まないんだ。
貴女は派手で騒がしい場所が苦手だから。
「十一月? うん、いいよ。ボクで良ければ、頑張るよ。お手伝いさせて?」
拍子抜けするほど快い返事に、佳主馬はうっかり二度ほど聞き返してしまった。
「ボク以外の、誰をパートナーとしてエスコートしようと思ってるの?」とまで言われてしまえば、佳主馬はとんでもないと激しく首を振るしかない。
担当員である綾瀬は既婚者であるし、夏希は親戚なのを知っているのだから、健二の言葉は本気で言っているわけではないと知っている。
だとしても独占欲を滲ませた健二の言葉を、佳主馬は嬉しく思うのだった。
「ありがとう、健二さん。フォーマルパーティだから、ドレスコードもそれなりなんだよね。夏希姉にたのんでるから、ドレスを見立ててもらって?」
助けてもらうんだから、資金はこちらで負担するよという佳主馬に、健二は少々顔を引きつらせる。
格式ばったパーティだと知って、引け腰になってしまったのだろう。
しかし、既に言質を取られてしまっており佳主馬が乗り気になってしまっているため、やっぱり別の人を探してとは言えない雰囲気である。
「う、うーん」
ちょっと早まったかもしれない、何てことを思いながらも健二は微苦笑しながら、安請け合いしてしまった数分前の己をこっそり呪うのだった。
――でも、やっぱり綺麗な貴女を見たいから。
飛び切り綺麗に着飾ってもらいたいのは、きっと恋人の欲目。
「お、お待たせ。佳主馬くん」
長い間待たせちゃってごめんねと謝る恋人に、佳主馬は笑みを浮かべて首を振る。
「全然、大丈夫。こんなに綺麗な健二さんを見れるなら、半日でも一週間でも待つよ」
凄く、綺麗だよ。と蕩けんばかりの笑顔で告げられてしまえば、健二は纏ったドレスも色を無くすくらい顔を赤く染めて目を伏せるしかできない。
「あ、ありがとう……」
恥らう姿まで愛おしくてたまらない佳主馬は、あれこれ悩んだけれどパートナーを健二に頼めて良かったと思うのであった。
――そんな綺麗な姿で、俺を誘惑しないでほしい。
いつだって、俺はギリギリなんだから。
耳元で囁けば、とろんとした瞳が佳主馬を見上げる。
「甘えちゃ、ダメ?」
「とんでもない。もっと甘えてくれても、全然構わないくらいだよ」
瞼にキスを落として囁くと、健二は嬉しそうに微笑んで体を摺り寄せる。
――二人だけの、秘密のパーティが……これから始まる。
2010-03-21 HARU COMIC CITY 15 頒布予定