ねえ、レンラク。……マダ?

 OZにログインして最初にすること。
 フレンドリストを開いてログイン情報の検索。
 ショートカットキーでサブウィンドウを呼び出せば、フレンド登録しているアカウントのログイン情報が表示される。
 夏希は携帯でログイン中、調べ物をしているらしくライブラリにいる。
 佐久間はPCでログイン中、時間的にOZ保守点検のバイト中だろう。
 流し読みで確認しながら、一番知りたいアカウントの段を探して……かすかにため息を吐く。

 目当てのアカウントは現在ログアウト状態にあるようだ。
 最終ログイン記録は、数時間前で完全なる入れ違い。
 多忙な人であるのは承知しているが、ここまですれ違い入れ違いが続けばため息の一つや二つ吐きたくなると言うものだ。
「……今日も、佳主馬君からの連絡は無し、かぁ」
 携帯の着信履歴を見ても彼の名は無い、メール着信の最後の日付はもう一月も前。
「もう、一ヶ月も声聞いてないよ……」
 連絡が途切れた間に、クリスマスも、大晦日も、お正月だって終ってしまった。
 何の前触れもなく、連絡がなくなった相手を思って健二は今度ははっきりと深くため息を漏らす。
 佳主馬とフレンド登録をしている佐久間や夏希に聞いても、やはり連絡はないらしい。
 エキシビジョンマッチなどにはちゃんと出ているようだ。
 その時にあわせてログインしても、エキシビジョンが終ればすぐにログアウトしてしまうためこちらから連絡することは出来ない。

 それに……。と、健二は思う。
「話し掛けても、冷たい目を向けられるかもしれないのが……怖いかな」
 そんなことがない、と自信を持つことは出来ない。
 佐久間からは「お前は自分への評価が低すぎる」と呆れ返った様子で何度も言うけれど、自分はそんな大層な人間じゃない。
 それに比べると佳主馬は、未だ学生の身分でありながら実業家として活躍してる上に、OZ内ではキング・カズマを知らない人はいないくらいのスーパースターだ。

『本当に、健二さんのこと……本気で好きだよ』

 熱っぽく囁かれて、射抜くような強い瞳で見つめられて、信じられない人間がどこにいようか。
 信じずにいられたなら、こんなに苦しい思いはしなかったのかもしれない。
「会いたい……な」
 でも、こっちから会いに行くことが出来ない。
 佳主馬は現在受験を控えた大事な時期だ、受験生の苦労を知っている自分がそれを邪魔するわけにも行かない。
 OMCのエキシビジョンだって、今年に入ってぐんと減った。
 出来る限り活動を縮小して頑張っているのに、それを水泡に帰すような真似をしてはいけないと健二は思う。
「なんで、4つも離れてるんだろう……」
 誰もいない自室で、小さく呟く。
 4歳の年の差をいつも気にして佳主馬は拗ねて見せるが、実を言うと年の差を気にしているのは自分のほうだと健二は思っている。
 自分が同じくらいの年なら、受験勉強一緒にしようと言って押しかけることも出来る。
 でも実際は、勉強を教えてあげると押しかけようにも専攻が違うので、数学くらいしか手伝えない上に東京と名古屋の距離は簡単に行き来するには離れすぎている。
 もし押しかけていったとしても、奇異な目で見られるのはどうしても勘弁してもらいたい。
 ヒーターは効いているはずなのに、少し肌寒いような気がして引っ掛けたカーディガンのボタンをきっちりかける。
 でも、本当は寒く感じる理由はわかっているし、それくらいじゃ暖かくならないことも知っている。
「僕のこと、嫌いになっちゃった……?」
 携帯で呼び出した佳主馬のアドレスを見下ろして呟いた声は、健二が思っているよりずっと掠れていて鼻の奥がツンとする。
 今の健二は、自分から連絡することもできず、不安に苛まれながら連絡を待つしかできない。

 少し湿っぽいため息を吐いて、OZからログアウトしてPCの電源を落とすと携帯を握り締めてベッドに潜り込む。
 眠ってる間に、もしかしたら夜中に連絡が来るかもなんて淡い期待を抱いて、携帯を握り締めて眠るなんて。
 笑ってしまうほどサマにならない。
 せめて夢の中で位は逢いたいと思いながら。

「佳主馬君の……ばか」

 恋人への恨み言を小さく漏らして、健二は目を閉じた。

これを書いたのは、ニコニコ動画でボーカロイド「リン」の「レンラクマダー?」という曲を聞いたからだったりします。
感化されやすい単純人間ですw
会いたくてたまらないのに会えない切ない気持ちとか、ご馳走です。
そして佳主馬バージョンも思わず書くくらい勢いが乗ってました(笑)