親に携帯を取り上げられた。
なんて、この年になって恥ずかしくて言えたモンじゃない。
理由は、模擬テストの点数がちょっと下がったから。
「受験生で、一番大事な時期に何やってんの」
そう怒られたのは自業自得かもしれない。
遠距離恋愛中の年上の恋人と喋るのに夢中になって、勉強を疎かにするだなんて受験生にあるまじき失態だろう。
しかも本番まで秒読み段階になっているのだ、親が心配しないはずがない。
「あんまり酷いと、上京の許可を撤回するわよ」
その脅し文句は余りにも効果的で、さすがの佳主馬も言い返せずに黙り込むしかなかった。
どうしても外せない仕事の時間だけは許されて、エキシビジョンで穴を開けることは免れているけれど終ったら即ログアウトしなければならない。
観客席に健二さんが見に来てるのが判っているのに、話かけることも出来ずに。
年末年始のイベントも、ほとんど省略された。
クリスマスにはケーキもチキンもあったし、年越しそばも御節もあった。
年越しは上田でする予定だったのに、受験生だからと名古屋で年越しになった。
「心配、してるだろうなぁ」
テキストの問題をノートに書き写しながら、小さく呟く。
不安な思いをさせているだろう。
ロクに顔を合わせることも出来ず、携帯を取り上げられてPC使用を制限されているから説明すらできていない。
逢いたくて、声を聞きたくて、いい加減煮詰まってきてる状態なのに。
折角、東京の大学を受験する許可を貰ったのに、今親からの信頼を失ってそれを覆されるわけには行かないから大人しく言うことを聞いて勉強に勤しむしかない。
どう足掻いたって、佳主馬は親の保護下にある子供でしかないのだ。
たとえ、10を超えるスポンサーがついたOZのスーパースターで、幾つものゲームを作り出している実業家であっても。
実際は成人もしていない子供で、それがこういう時つくづく嫌になる。
「ホント、いやなこと突きつけてくれるよ」
成人と未成年の差を突きつけられて、それは健二と自分の見せ付けられているようなものだ。
5年前に比べて、身長も随分と伸びて成長したと思っていても、恋してる相手はそれを4年先行している。
焦るなと言うほうが、無理な話だ。
でも、一歩ずつ着実にステップを踏まなければ、胸を張って彼の隣に立てないのも佳主馬は判っている。
「泣いてないと、良いな」
もう一月も連絡をしていないのだから、不安がるなと言うほうが無理な話だ。
だから、せめて泣いてなければ良い。
滅多に泣く人じゃないけど、だからこそ泣かせてしまいたくないと佳主馬は思っている。
笑顔が見たいのだ、喜びを顔全体で表現するような晴れやかな、嬉しそうなあの表情を。
問題を一つ解いて、一息ついてカレンダーを見上げる。
後一週間ほどでセンター試験。
自己採点の結果次第では、親を安心させて携帯を奪取することが出来るだろう。
そのためにはやはり勉強を頑張らなければならない。
まあ、センター試験を乗り切ってもその一ヵ月後に本試験があるから、気を抜くことは出来ない。
だから、もう少しの辛抱だ。
後一週間ちょっと。
それを乗り切れば、やっと恋しい人に連絡することが出来る。
「はぁ……声、聞きたいなあ」
小さく弱音を吐いて、再びテキストに目を落とす。
些細な権利を勝ち取るためには、目の前の勉強を倒さなければならない。
こういうときに健二さんから励ましの言葉が欲しいよな、とぼやきながら。
佳主馬はノートにペンを走らせた。
恋にかまけて学業が疎かになる佳主馬プギャー!とか思いながら書きましたw
普段色々淡々とこなしてスマートな佳主馬も健二さんがかかわれば型なしというのが好きです。
なんというか、色男台なし。みたいな感じ?
何時までも佳主馬は健二さんに振り回されてしまえば良い。はぁはぁ