カフェオレ+君の体温=幸せ

 コポコポコポと先ほど水を注いだコーヒーメーカーから、湯気と共にコーヒーが落ちる良い匂いがする。
 2人分のコーヒーは、さほど待つことも無く出来上がるだろう。
 健二は、膝に広げた雑誌を読むともなしに目を通しながらぼんやりと思う。
 朝の置きぬけのコーヒーならば、眠気がシャッキリと冷めるようなちょっと苦めのブラックが良い。
 けれど、休日の昼下がりにのんびりと啜るためのものならば、牛乳をたっぷり注いだカフェオレを冷えた掌を暖めるように両手でマグカップを包み込むように抱えて飲むのが好きだ。

 一人暮らしをしていた頃は、そんなことを考えもせずに牛乳を出して暖めるのが面倒だったからとブラックコーヒーばかり飲んでいたのに。
 それを変えてしまったのは、今鼻歌交じりにミルクパンで牛乳を温めている人の功績だと健二は思う。
『毎度毎度ブラックだと、体にも胃にも悪いよ。カフェイン中毒になりかけたの、俺忘れて無いから』
 あわや入院と言う事態になって、当時名古屋に在住していた佳主馬は心臓が止まりそうなほど心配したのだから自然言い方も厳しくなろうものだ。
 今では、朝はコーヒーを飲むものの、大学の研究室ではココアかノンカフェインのお茶を飲むようにしている。

「はい、健二さん。今日はもらいもののクッキーがあるから砂糖は入れてないよ」
 片手にマグカップを二つ、反対の手にクッキーの並べられた皿を持って佳主馬がキッチンから出てくる。
 佳主馬はソファでなく床に座り込んだ健二にマグカップのひとつを器用に渡すと、ローテーブルにクッキーを置いてソファに腰を下ろす。
「ありがとう、佳主馬君」
 暖かいミルクたっぷりのカフェオレを一口啜って、ホウと息をつく。
 外はすっかり冬模様だけど良く晴れていてエアコンをつけるまでも無い。
 けど、やっぱり空気はちょっと冷えていてホットカーペットの電源は絶賛起動中だ。
 だから健二がソファでなく床に腰を下ろしている。
 ホットカーペットは暖かくて、受け取ったカフェオレもほっこりと体を温めてくれる。
 もしかしたら、これが幸せって奴なのかな? とぼんやり思いながらカフェオレを啜りつつ、健二はすぐ側にある自分以外の体温に寄りかかる。
「ん? どうしたの、健二さん」
 足に寄りかかられて太もも辺りにこてん、と頭を乗せてくる恋人に佳主馬が口にしたクッキーよりも甘い声で囁く。
「んー? なーんでもない」
 含み笑い混じりに答えて、甘えるように太ももにグリグリと頭を擦り付ける。
「髪、ぐちゃぐちゃになるよ」
 健二の猫っ毛を大きな手で梳くように撫でながら、同じく含み笑いをしながら佳主馬が応える。
 くしゃ、と髪を撫で頭皮を撫でる指と掌の感触が心地よくて、健二はもっとと言わんばかりに佳主馬の太ももに頬ずりをする。
「なに、今日の健二さんは随分甘えるね」
「そんな気分なんだよ」
 ちょっと肌寒いからかな、と言いながら少し気が済んだのか頭を離してカフェオレを飲み始める。
 少し乱れてしまった健二の髪を手櫛で整えながら、佳主馬はマグカップの中身を飲み干してローテーブルに戻す。
「昨日より気温は低いらしいからね。でも、くっつくといい感じに暖かくて良くない?」
 よいしょ、と佳主馬がソファから床の上に座りなおして健二の肩を抱き寄せる。
 包まれるように抱き寄せられ、先ほどよりもずっと近くに佳主馬の体温を感じて健二も同感だ、と笑う。
「幸せの方程式がひとつ出来たかも」
「そう? これで幾つ目?」
 佳主馬の問いかけに健二は少し考えて、悪戯っぽく微笑んで飲み終えたマグカップをローテーブルに戻す。
「円周率の桁よりも多いかも」
 ほぼ無限に近いといわれる円周率の桁よりも多いとは、また豪気な……と佳主馬は笑いながら足を跨ぐように圧し掛かって抱きついてくる健二の体を抱きしめる。
「それなら、解析は2人掛かりでも一生掛かるね」
 そう言って、瞼や頬、唇に軽くキスを落として佳主馬が笑う。
「解析する側から、増えていくんだよ」
 くすぐったそうに首を竦めて笑いながら、健二もお返しとばかりにキスの雨を降らせてくる。
 じゃれあうようなふれあいは、熱の篭ったそれに変化するのに時間は掛からないだろう。

なんというラブラブ!
そんなセルフツッコミを入れながら書きました。
同棲してるように見えて、実はこいつらお隣さん同士なんです。
もう一緒に暮らしてると言ってもおかしくないくらい、お互いの部屋に入り浸ってるけどね!
今回はきっと佳主馬の部屋。
二人は佳主馬が大学を卒業して就職か起業する時に、マンションを買って二人暮らしを始めると思います。